慶應大経済学部2021年入試・日本史大分析

大問1は比較的簡単でした。問1、問4、問5はほぼ教科書レベル。問2は近世の交易つながりで松前藩に話題が飛びます。慶應大経済学部らしい難問です。問3は出典がわかれば楽勝ですが、b:日朝修好条規、c:壬午事変はともかくも、a:福沢諭吉「脱亜論」がどこに入るかは難しいです。問3は世界史の知識が不可欠。問2(1)は選択問題ですが正確な知識が必要。問2(2)と問4は論述ですが、後者が教科書レベルなのに比べると、前者はマニアックな難問です。

 大問2のベースは明治以降の政治史。問6はやや細かい出題です。年号そのものは問われませんが、正確に覚えている必要があります。このパターンは毎年出ています。問7(1)は大津事件(過去問を見ると5年間で2回出題されています)の論述、(2)は重箱の隅を突く問題ですが、史料を熟読すれば見えてきそうです。問8は教科書理解の応用編。(1)(2)(5)は比較的素直な問題です。(3)は良問です。選挙権拡大の歴史に「女性史」関連の事項(ただ大阪事件は民権派によるテロ輸出未遂で、景山英子が参加しているだけで女性問題とは無関係)を挿入するというパズルのような出題です。(4)は貴族院成立に結び付けられる知識があるかどうか。問9(1)が教科書レベルの問題なのに対して(2)は超難問。グラフ解読の手がかりがありません。強いて言えば、ストライキが増えるのが一次大戦中だということ。しかし提示される出来事が、日比谷焼打ち事件以外は、年号を覚えておけというのが酷なものです。出題者の労働問題への思い入れが出たかのようです。

 大問3の問題文は琉球略史。問10はほぼ教科書の知識。よほど沖縄史をやっていない限り、那覇以外の地名は思いつかないと思います。問11は、a:琉球藩設置、b:琉球処分ですが、年号の知識は不可欠。メインの政治史と地方史を重ね合わせる作業が難しいです。問12は常識的な論述問題。問13はaの峠三吉『原爆詩集』を知っておれば、あとは比較的簡単に判別できそうです。(2)はソ連が日本の加盟に執拗に反対していたこと→鳩山一郎の日ソ共同宣言署名がポイント。問14は、マイナス成長に沈んだのが1974年というのは常識の範囲なのでそこから割り出せそうです。aの教育委員任命制はお手上げでもいいでしょう。問15(1)は吉田内閣時というのがヒント。(2)は第1回原水禁世界大会の年号など、覚えている方が不思議です。
 大問1、2の主題といい、大問3の琉球史のネガティヴさといい、出題者の嗜好が露骨に出た年でした。