慶應大文学部2020年入試・日本史大分析

大問1は、古代〜中世の、大問2は江戸時代の対外関係を中心にした選択問題です。両問ともに、教科書の知識で対応できる問題がほとんどですが、例えば大問1を見ると、(ハ)の沈んだ貿易船の話題など、教科書のコラムに登場するような挿話や細かい語彙が問われています。選択肢に(イ)円珍と円仁、(ロ)博多と福岡、(ニ)祖阿と肥富と、ケアレスミスをしかねない紛らわしいものが含まれているので要注意です。教科書をストーリーとして消化し、派生される物語に興味を持つことが必要です。

大問2は選択肢の絞り込みができれば、かなり正解率を挙げられる問題だと思われます。教科書、用語問題集を繰り返し行い、的を射た選択ができるように知識をブラッシュアップしましょう。なお、大問2には年号の問題が4つ出題されています。

 大問3は、大和時代の政治についての記述問題です。氏姓制度から皇親政治に至る語彙を問う出題で、一応は教科書に登場するレベルにはとどまりますが、古代の政治システムについての正確な理解と知識が求められています。

 大問4は、奈良・平安時代の史料問題です。問1〜問6の記述問題は教科書レベルですが、問7の論述問題は陣定、太政官、公卿という3つの用語、特に、陣定が天皇の諮問機関であることを区別してしっかりと書けるかどうかがポイントになります。

 大問5は、文学部では出題頻度が低い昭和戦前史が登場します。これが2020年では最も難問だったかも知れません。まず、時期を解読する必要があります。「日支衝突」は日本と「支那」(中華民国)の紛争を指しますが、胡散臭い歴史書に登場する「15年戦争」という言葉は「嘘」です。満州事変が塘沽停戦協定で終結した後、盧溝橋事件が起こるまで、日中両国は満州国を棚上げにして、広田弘毅外相を中心に国交調整を行っていた比較的平和な時代でした。だからこれは満州事変(1931年)か日華事変(学習指導要領にはそうあります。いわゆる日中戦争、1937年)しかありません。文中に「金本位制の停止」とあるので、これは前者だとわかります。しかしそれが解答に直接役に立つのは問1の年号(月まで問われています!)、問2の柳条湖だけで、残りの問題は直接的には満州事変に関係ありません。問7の論述問題は経済史の視点が必要です。深刻な農村不況については教科書にも触れられていますが、その背景の理解が説明できるかということです。作況と米価までは資料集などでカバーできそうですが、労働者移動の観点とは? なかなかの奇問です。