慶應大文学部2021年入試・日本史大分析
大問1は、古代から近世にかけての仏教を軸にした記号問題です。ほぼ教科書レベルですが、例によって「解無し」の設定があり、曖昧な知識を消去法で絞りこんでいっても、間違ってしまうケースが多いと思われます。
大問2は、(イ)が鎌倉、(ロ)は南北朝〜室町の政治と文化を融合した記号問題です。「頼朝の後押しで摂政になった人物」「嫡男の為家の正室の父の領国」「初代京都守護」「連歌の規則を改訂した集大成」など、素直でない出題が多いです。断片の組み合わせになる教科書の行間を埋め、ストーリーとして歴史を理解していることが求められています。
大問3は、日露関係史を軸にした近現代史の記述問題です。マニアックな知識を問う問題が3問あります。B日露条約の開港場(箱館、下田、長崎)とHの遼東半島還付金の金額は、教科書レベルでは影が薄いものです。D大津事件の犯人・津田三蔵を覚えている人は稀ではないでしょうか。他に出題されてもおかしくない「有名テロリスト」は、安重根(伊藤博文暗殺犯)、佐郷屋留雄(浜口雄幸暗殺未遂犯)、山口二矢(浅沼稲次郎暗殺犯)などが考えられますが、事件の登場人物として頭の片隅においておく程度で良いでしょう。それよりも絶対に外せない他の7問を完璧に答えられるようにしましょう。
大問4は古代政治史の史料問題です。超難問ではないですが、決め手がない史料について、問題文がヒントになっているというパズルのような構造の良問だと思います。例えば、(ハ)は大学別曹だとわかりますが、そのどれにあたるかはわかりません。しかし文中の「父」が、問題4で「769年に神社に派遣されている」とあることから、和気清麻呂が導き出されて、そこから弘文院が判明します。日本史を勉強してきた受験生なら、この流れに知的な快感を覚えるのでは? それこそが、慶應大文学部の求める知識なのだといえば言いすぎでしょうか。
大問5は、教科書レベルの最高峰とでもいうべき史料問題です。(イ)新井白石の『折たく柴の記』と(ロ)海舶互市新例の、いずれも教科書で触れられる基礎的内容ではありますが、本問はそれをベースに、単に用語の暗記ではない、教養レベルの知識を求めています。最後の論述問題も、その線で出題されています。長崎貿易による金銀の海外流出、明暦の大火や綱吉の浪費などにより財政難とインフレの二重苦にあえいでいた幕府財政を立て直し、貨幣価値を安定させる目的があったというのは、教科書の内容だけで導き出せます。これぞ大学入試問題だ! という良問だと思います。